第4話 〜出発までのプロローグ4〜
6月5日、10時45分丸亀発特急「しおかぜ6号」に乗り込む。高松空港から関空までのフライトが変な時間だったので、JRで向かうことになったのだ。
とにかく、大きなトランクを持ってJRで旅するのはやりにくい。座席近くには持っていけないから、出入り口付近に置いておく。平和な日本と言えども、目の届かない場所に荷物を置いておくのはやはりキモチのいいものではない。早めに荷造りして、宅配便で関空に送っておけばよかった。帰りはそうしよう。
・・・・無事に帰れたなら・・・・・。
岡山駅でスーツケースをあちこちぶつけながら11時20分発の「ひかり106号」で新大阪へ。ここでも、出入り口に荷物を置く。やはり、気になる。岡山を出ると新神戸が次の停車駅。
小学校4年生の時、国語の時間で「詩を作る」と言うのがあった。丁度、その前に初めて新幹線に乗って、今回の逆のルートで香川のお袋の実家に盆の墓参りに行ったので、新幹線が新大阪を出て、新神戸に着くまでをドキュメント風に詩に書いた。その頃から私の企画力は進歩がない(爆)。
それはこんな詩だった。
新幹線
初めて新幹線に乗った。
混んでいた。
新大阪を出た。
スピードが出てきた。
トンネルに入った。
長いトンネル。
青い火花が散った。
トンネルを出るとそこは新神戸だった。
この当時、本人は全く盗作の意識はなかったが、最後の一文ですっかりこの詩そのものの、いや私の言動全体の信憑性が落ちた。大人たちは
青い火花が散った。
の文を見て、「そんなものは、車内からは見えない。新幹線が走るとき、パンタグラフに火花が散るのを、普段外から見てたので(当時の我が家は新幹線の高架の近くにあった)、創作したんだろう。盗作するような奴だから、そうに違いない。」と私を嘘つき呼ばわりした。いくら、私が「本当に見える」と言っても信用してもらえなかった。
この新幹線に乗ったのは、お盆の帰省ラッシュの時。車内はすごく混んでいたので当然座れない。そこで私たち家族は出入り口付近で立っていた。しかし、私はそこで体育の三角座りをして、出入り口の窓から上の方を見ていたのだ。こうすれば、暗いトンネルの壁面上方にパンタグラフの火花が映って見えるのである。絶対に。
私はこの詩の事件で、「人間一度信用を失うと、二度と信用してもらえなくなる。」と言うことと、「他人の思いこみを解くのは難しい。」ことを学んだ。そして、自分に子供ができたなら、「その子の言い分は偏りのない心で聞こう。」と誓ったものである。
ちなみに、ウチの親は未だにこの詩を持ち出して、息子が如何に昔からいいかげんな奴であったかを人に説明するのである。
さて、新神戸。窓の外から「誰もトランク盗んでいきよらへんやろな」と窓の外を睨む。
六甲トンネルを抜けて、12時15分新大阪着。トランクが重い。最後に入れた会社案内10冊とカタログ30部が効いている。駅はトランクを転がすような構造になっていないから、段差を越える毎に持ち上げないといけない。最近の睡眠不足と運動不足と過度の飲酒でr-GTPと中性脂肪がちょっぴり高いカラダには堪えた。
さて、これから11時間の長いフライトが待っている。ヒマつぶしの本でも買っておかないと間がもたない。関空ではあまり時間がないので、ここで買っておかないといけない。私は速読派(読み飛ばし屋)なので、とにかく分厚い本。星新一が好きなのだが、星新一の作品では文の主語と述語が近くにあるので、早く読めてしまう。じゃ、文体は似たような感じでも、内容がややこしい松本清張にしよう。「砂の器」クラスの長編推理小説であれば、読むのに相当時間がかかる。
そこで、新大阪駅構内の本屋の松本清張の所を見たが、長編がない。並べてあるのは薄い短編ばかり。それも全部持っている。何度も読んでいる。これではダメ。じゃ、他の作家と思っても、なかなかいいのがない。。。。と散々選んだあげくに手にしたのは、「トンデモ・ノストラダムスの本」。これは結構ページが多い。内容は、日本のノストラダムス関連の本がいかにデタラメであるかを指摘した内容。ちょうど来月は1999年7月なので、話しのネタに読んでおこうと買った。もちろん、同時に「少年マガジン」「モーニング」「アクション」の3冊も買った。
12時46分、「はるか27号」に乗り込む。さすがに関空特急、ちゃんとトランクスペースが用意されている。貴重品入れの中のパスポート、航空券をもう一回チェックする。簡単に済んだ荷造りはここまで不安を引っ張る。
・・・今回でフライトするはずだったが、話しもどんどん引っ張る。
つづく・・・・