種子の表面構造の特徴は,植物の同定と分類に用いられ,現在実用化されつつある.例えば広島県警では,76科 280種類の種子を実体顕微鏡及び走査型電子顕微鏡で観察し,その特徴をデータベース化して犯罪捜査に利用することを検討している(安倍ら,1992).種子表面構造の走査型電子顕微鏡による観察は多く,近年でもキキョウ科(Murata,1992),マメ科( Gupta,1991,1993; 森脇ら,1990; Solum・Lockerman,1991),野生イネとシバ( Jordanら,1985)などで観察され,分類学の資料として用いられている.
アブラナ科蔬菜の種子では渋谷・岡村(1952, 1954)と青葉(1981a, 1981b)が,Brassica属種子(1955)の表皮の断面構造を分類している.山岸も Brassica campestris L. の種間変異の解析(1989)とスグキナ系統の特性調査(1990)に種皮の断面構造の分類を用いているが,種皮構造の分類のみでは分類基準として不充分であることも指摘している.走査型電子顕微鏡によるアブラナ科植物の種子表面構造の観察も行われているが,種子表面構造による種の分類の可能性については意見が分かれている(中村,1985; Steimer,1977).
そこでここではBrassica oleracea L., B. campestris L.,B. juncea Czern., Raphanus sativus L.の数種類及び Brassica oleracea L.と B. campestris L.の1代交配雑種について種皮表面を走査型電子顕微鏡で観察し,その微細形態を調べた.